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土木遺産㉘ 揖保川の畳堤(たたみてい)

土木遺産㉘ 揖保川の畳堤(たたみてい)

土木遺産㉘ 揖保川の畳堤(たたみてい)

2022.6.24

高欄に畳を差し込むことで堤防となる畳堤

 

たつの市の揖保川では大きな窓が開いたような高欄が連続して設置されている。これが畳堤と呼ばれるものだ。水位が上がった時にここに畳を差し込んで堤防として機能させ、洪水を防ごうというのである。

図-1 平時は河川を眺望することができる

 

揖保川は古くから水害の多い川で、中でも1945(昭和20)年には枕崎台風・阿久根台風により何度も堤防が決壊し沿川は大きな被害を受けた。翌年から始まった揖保川改良工事において壁状の堤防が計画されたが、周辺住民から川面の眺望が悪くなると反対が起きた。「防災はみんなで行うもの、洪水の時は自分たちも畳を入れて協力する」という要望を受けて、畳堤とすることになったという。

図-2 畳を挿入した状態のデモンストレーション

 

なんとしなやかな発想だろう。従来、河川管理の責任を負う河川管理者が河川区域内においてさまざまな整備を行うことで沿線の住民を洪水被害から守るのが治水事業だと思われてきた。それを転換して、住民を守られる存在から防災の当事者へと位置付けを変えたのがこの畳堤だ。なお、畳堤を設置した当時は各家庭の畳を持ち出す想定であったが、最近は畳の部屋が少なくなりまた寸法が合わなくなってきているため、市では防災倉庫に畳を備蓄している。

図-3 防災倉庫に保管されている畳(たつの市の協力で倉庫を開扉していただき撮影)

 

身近なところでその姿をしばしば目にすることができることから、畳堤は住民の自主防災意識を啓発し続けるシンボルとして機能してきた。その畳堤が堤防として本当に機能したのは2018(平成30)年7 月7 日のことだった。折からの激しい雨はいっこうに収まる気配がなく、水位はいつになく高まった。23 時過ぎになって正條地区では畳の使用を決断。30 人の役員がずぶ濡れになって畳を差し込んでいった。訓練を重ねているとは言え、地区の200m のすべてに畳を入れることができたのは、深夜にもかかわらず川の様子を見に来た住民10人あまりが作業を手伝っても2 時間ほどかかったという。水位の上昇が止まった午前2 時頃には、畳が水に浸かる寸前まで到達していた。国道や駅に近い正條地区では住民の流入が続いており、自治会は、今後とも“自分たちの町は自分たちで守る”という自治意識を伝えていくことが課題だと語っている。

 

(参考文献) 「60有余年の時を経て役目果たした「畳」の堤防」(ミツカン水の文化センター「水の文化」62 号所収)

 


 

筆者:坂下 泰幸

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