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土木遺産㉞ 大野ダム

土木遺産㉞ 大野ダム

2022.12.12

由良川の洪水調節に効果を挙げている大野ダム

 

 由良川は洪水の多い河川だ。これは由良川の成立過程と大いに関係があると言う。福知山より上流の由良川は、もとは土師川・竹田川を経て石生から加古川に流れていたのが、数十万年前に石生付近が相対的に隆起したため、福知山から綾部にかけての地域は湖のように水が淀む状態になった。やがて湖水は北方に出口を見出し、現在のような由良川の流路になった。したがって、福知山より下流の由良川は、上流の流域面積の広さに対応するだけの河谷を形成するに至っておらず、河積が過小な状況にあると推測される。

 急峻な上流部、狭窄な下流部、その間に位置する中流部の盆地という構成になっている由良川では、下流部の疎通能力が限られているために、中流部の洪水を防止するためには上流部で洪水を調節するしか方法がない。よって、水系の統合的な治水計画のもとに直轄河川事業が開始される1947(昭和22)年まで、沿川はほぼ無防備な状態が続いた。

 47年に策定された由良川改修計画は、53年には大野ダムの建設が追加された。しかし、同年9月の台風13号による降雨はことのほか激しく、改修計画は根本的な見直しが必要となった。検討の結果、福知山における計画高水流量を3,100m3/秒から5,600m3/秒に引き上げる計画が58年に改定された。これにおいて大野ダムは、ダム地点における計画高水量2,400m3/秒のうち42%に当たる1,000m3/秒を調節するものとされた。

図1 由良川水系の概要

 

 事業は建設省近畿地方建設局(当時)が初めて直轄で行うものであった。台風13号の甚大な被害に鑑み、ダム建設について当初から強い姿勢を示していた。下流自治体も切に要望していた。

 一方、ダムにより家屋132棟、宅地23ha、田畑60ha、山林96.5haなどが水没する旧大野村と旧宮島村は、大野ダム計画を察知した51年から一貫して反対していた。時の府知事は、台風13号の惨状を見て大野ダムの建設は不可欠だと考えていたが、住民の犠牲も最小限にすべきとしていた。そして、“被害者を被害者のままにしない”という理念のもと、今後の営農については府が総力を挙げて善処すると約束し、水没を契機としてこれまでの不安定な農業経営から転換するよう説得にあたった。これが実って補償交渉が妥結し、57年11月に着工して3年5か月を費やして完成した。重力式コンクリートダムで、堤高61.4m、堤頂長305m、堤体積16万7,000m3。貯水池の湛水面積1.862km2、有効貯水量21,320,000m3。わが国で初めて内部に放流管ゲートを内蔵した重力式ダムとされ、コンクリートに高炉セメントを使用しているのも特徴だ。

 大野ダムの洪水調節の例として、2004(平成16)年台風23号の場合を府が作成した「平成16年台風第23号災害の記録」から見ていこう。この台風は10月20日に高知県に上陸し、広い範囲でこれまでの日降水量の記録を更新する大雨を降らせた。舞鶴市の由良川に沿う国道175号が冠水し観光バスの乗客は屋根に上がって救助を求めた。大野ダムでは、21日2時頃にはダムの貯水位が上限を超えることが予想され、通常ならば、ダムの溢水による下流の急激な水位上昇を避けるためにダムへの流入量をそのまま下流に放流する操作が行われるところであった。しかし、放流による重大な影響が懸念される状況であったので、人命救助を優先して上記の操作を見合わせた。この対応に当たっては、最悪の場合、ダムからの溢水によって急激な水位上昇が発生する可能性があったため、関係機関と綿密な連携が図られた。結果的にはその後は降雨がおさまり、ダムからの溢水は回避された。21日12時頃まで洪水調節を続けて、最終的には約1,773万m3の洪水を貯留した。

 

この例からもわかるように、大野ダムの効果は大きいが、まだ由良川の治水は満足できる水準に達しているわけではない。改修の促進が望まれる。

 紅葉にはまだ少し早い秋の日、大野ダムを訪れた。かつて地域に厳しい選択を強いたダムも、今は穏やかであった。貯水湖は「虹の湖(にじのこ)」と名付けられ、ダムの完成時に関係者や住民が植えた約1,000本の桜と約500本のもみじが水面に影を落としている。ここで4月には「さくら祭り」、11月には「もみじ祭り」が開かれる。ダムの整備効果などを説明した案内板が設置され、管理事務所に隣接したビジターセンターにはダムに関する資料が展示してあった。府は、ダムの周囲にパターゴルフ場、多目的広場、運動公園などを開設して地域の利用に供している。また、ダムサイトは南丹市が占用して公園として供用している。そこではゆっくりと遊歩道を散歩する人の姿があった。

図2 管理事務所に隣接するビジターセンター
図3 南丹市が開設している「大野ダム公園」

 

筆者:坂下 泰幸

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