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昭和レトロ探訪② ~建築遺産「ホーム上屋」~

昭和レトロ探訪② ~建築遺産「ホーム上屋」~

昭和レトロ探訪② ~建築遺産「ホーム上屋」~

2022.3.18

 第1回の昭和レトロ探訪では昭和の工業遺産「国電103系」を取り上げましたが、今回も鉄道に関する話題で、建築遺産ともいうべき歴史を誇る「ホーム上屋」です。

 歴史ある駅本屋、すなわち駅舎は現代の日本に於いても多数存在します。例えば東京駅丸の内駅舎等は特に有名です。奈良駅のように上手く現代建築と融合し外観を残すものもありますが、昨今の耐震工事や駅周辺の再開発により、それまでの歴史ある駅舎はことごとく解体され、「STATION」から「駅ビル」に変貌をとげ、殆どは姿を消しました。

 そんな中でもホームの上屋、すなわちホームの雨除け屋根は案外そのまま使用されているのをご存じでしょうか。関西の駅に現存する築100年になろうかという上屋の世界のトップに君臨するのが、今回ご紹介する「京都駅」です。

 

 簡単に上屋と言っても現代のそれは主に「逆L字型」か「Y型」が主流です。対面ホームの場合は線路と反対側に支柱を立て屋根を張り出す「逆L字型」。ホームに障害物も無く乗降口も制限がありません。また、島式ホームの場合はホーム中央に支柱を立てる「Y字型」、同じく乗降口側は広く使えます。ホーム側の高さも稼げるこの構造は主に電化された私鉄や、小規模なホームに使用されていました。これらは1本の支柱で屋根を支える構造の為、強度が保たれる鉄骨の支柱が一般的になってからの形式です。今回ご紹介する京都駅の上屋は、それ以前の建築物で、主にターミナル駅や格式のある駅に多く見られた「切妻型」のホーム上屋になります。

画像では見にくいが1938年の京都駅ホーム。軒飾りも見てとれる。

 

 京都駅で現存するホーム上屋は1914年(大正3年)に完成した2代目駅舎建設時に設置された上屋です。明治の西洋様式を引き継ぐ優美な曲線とカーブを描く支柱に深く大きな屋根。そして鱗状にびっしりと軒部分を覆う軒飾り。当初より白くペンキで塗られた軒飾りは、格式のある京都駅ならではの装飾です。新快速電車が頻繁に発着する2.-3番線ホーム、4-5番線ホーム、京都駅ビル下の1番線の東側において、優美な軒飾りを見ることができます。現代のホームに於いては各種安全機器や行先表示の電光板、あらゆる案内看板等が所狭しと吊り下げられ、まさかこの上屋が大正.昭和.平成.令和に渡り旅客をも守った建築物だとは思いもよりませんし、誰も屋根など気にもかけません。じっくり観察すると支柱に使われている鉄骨が実は古い線路を使用した箇所があることも見てとれます。大正3年に建てられた上屋に古い線路?と思われたでしょう。実は明治に初めて鉄道が敷設されたときに英国から輸入されたと思われる刻印入りの線路が使われているのです。

3番線の軒飾り。見上げる乗客はいない。蒸気機関車と客車が似合う風景。
3番線の西側。以前は上屋がここで終わっていた部分。妻飾りが現存する。

 

 6-7番線の上屋にも同じ軒飾りがありましたが、老朽化から落下の恐れがあるとの理由から2014年に撤去されています。また1番線は駅ビルが覆いかぶさり上屋は必要ない構造ですが、東側は軒飾りが残されています。2-3番線の西側は延長された鉄製上屋とのつなぎ目に当時のままの切妻飾りを見ることができます。

 京都駅を利用されることがあれば、ぜひ見上げてみてください。すべての軒飾りが撤去される日も、そう遠くはないと思われ、実際にじっくりと観察できるのも今だけかもしれません。

1番線東側の軒飾り。駅ビルの張り出し屋根の下にひっそりと残る。

 

 ここは既に現存していませんが、「奈良線 桃山駅」の上屋をご紹介いたします。明治天皇崩御に伴う天皇陵への参拝駅として栄華を極めた駅で、最盛期には1日8万人が利用したとも言われていますが、現在は普通電車しか停まらず、1日の乗降客は2000人程度のローカル駅となります。過去の賑わいを知る由もありませんが、2018年のバリアフリー化の建て替え工事で解体されるまでは立派な木造屋根の上屋が掛けられていました。緩やかなカープを描くホームにゆったりとした大きな上屋。まさに皇族が乗降した面影を残す貴重な上屋でした。案内看板や電気設備も無く、往時を偲ばせる風情がある風景は、前回紹介した国電103系の似合う景色でした。

現在は皇族方が桃山御陵に参拝される時は、京都駅八条口の宮廷通路を出られ、そのまま御料自動車の車列によって向かわれるのが常であり、桃山駅にお召し列車が着くことはありません。

上屋が残る頃の桃山駅。画像左手、既に京都方面ホームは鉄骨造りにリニューアルされている。現在は3番線(右)も撤去され、全てが新しく変更されている。

 

 これら以外にも関西には探せばいくらかのレトロな上屋が存在します。例えば奈良線の木津駅。橋上駅舎の完成で大部分は失われましたが、駅北側に立派な木造切妻型の上屋が残っています。また、大和路線の王寺駅も昔ながらの木造上屋を見ることができます。これらの駅に共通するのは蒸気機関車全盛時代のターミナル駅であった点です。例えば木津駅は奈良線、関西本線、片町線の乗換駅で貨物扱いも多く、蒸気機関車の転車台があった駅で、王寺駅も然り。

 大阪駅にもひと昔前には全てのホームに立派な上屋がありましたが、現在は日本最大級の近未来的な「上屋」=大屋根が架かっており、、これはこれで100年後にはきっと平成レトロな名建築として語り継がれているかもしれません。

現在の大阪駅上屋。駅ビルにあるホテルの27階より撮影。東側を上から眺めると、駅全体を覆う巨大な上屋の下に本来の上屋が小さく見える。

 

たかがホームの屋根ですが、実は歴史ある建築遺産となっています。これからはスマホを見る目を、少し上に向けてみませんか。新しいレトロな発見があるかもしれません。

筆者:藤井 徹

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