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土木遺産㉚ 村田 鶴(かく)が湖北地方に残した隧道群

土木遺産㉚ 村田 鶴(かく)が湖北地方に残した隧道群

2022.8.9

村田 鶴が滋賀県で最初に完成させた横山隧道、格調の高い坑門のデザインは充分に鑑賞に値する

 

 廃道の研究で著名な永富 謙氏が究明したところによると、村田 鶴は、1886 (明治17)年に茨城県に生まれ、42年に工手学校を卒業後、埼玉県土木課を経て1918 (大正7)年に滋賀県に赴任し、主に湖北地方のトンネルに携わった。本稿では、「滋賀県土木百年年表」に村田の設計であることが明記されているトンネル4本のうち、横山隧道(長浜市鳥羽上町~米原市菅江)と谷坂隧道(長浜市小室町~同市郷野)年を紹介しよう。

 

 長浜の市街地から県道大野木(おおのぎ)志賀谷(しがや)長浜線を約7.3km。ほぼ直線で進んできた道路が山裾に沿って左右にうねる先にトンネルが見える。2002(平成14)年に開通した新横山トンネル(L=356m)だ。その坑口の手前から右に分かれる旧道があって、これを辿ると村田 鶴が来県して最初に完成させた横山隧道に至る。1919年に着工し23年に完成した。延長163.6m、内幅4.5m、高さ4.2m。坑門は煉瓦のイギリス積みで、迫石・笠石・帯石と4本の壁柱は石材である。笠石よりも上に壁柱が突出するいわゆる冠木門タイプで、全体としてバランスの取れたプロポーションが秀逸である。堀田 義次郎知事が寄せた扁額が架かっている。

 

 なお、本隧道で注目すべきは坑門の背後の水の処理だ。壁柱の前に三角形の壁のような物が見えるが、これが排水溝で、ここに坑門の上から樋が通じているのである。これにより、坑門に作用する土水圧を軽減しトンネルの耐久性を高めているのであろう。坑門の意匠と一体化している点に村田の設計力を見るべきだ。

坑門の背後の水を逃がす設備

 

 この隧道の工費は11.7万円余で、そのうち2.1万円はトンネルの両側の西黒田村と東黒田村が負担している。少し戻ったところに工事の経緯と西黒田村の寄付者氏名を刻した巨大な石碑がある。同じような碑が東黒田村にもある。これほどの碑を両村が建てるというのは、このトンネルの開通が大きな喜びで迎えられたことを物語る。

 

西黒田村(左)と東黒田村(右)が建てた隧道碑、表面の碑文は滋賀県内務部長が撰した同一のもの

 

 トンネルの内部には入れなかったが、側壁部・上半部ともレンガの長手積みのようである。白化や煤でまだらになっているが、地下水を含んでしっとりとした煉瓦は十分に健在に見えた。ところどころに小口ひとつ分くらいの穴があいていて、水抜きの用を果たしているようだ。覆工の煉瓦は1枚巻きであることが推定される。

 

 次は、県道郷野(ごうの)湖北線にある谷坂隧道だ。1933(昭和8)年に着工し35年に完成した、延長300.0m、内幅4.8m、高さ3.0mのコンクリートトンネルである。ここで特徴的なのは半円形の壁柱で、笠石のデンティルと相まってきわめて重厚なデザインとなっている。壁面は下板見張り風の装飾だ。トンネルの両側が開けているので、翼壁が城壁のような圧倒的な量感を示している。扁額は村地 信夫知事。なお、壁柱は単なる装飾ではなく、坑門の上部に流れ込む雨水を落とす排水管の役割も果たしているという。ここでも水への配慮は周到だ。

村田 鶴の作品の中でも特に高い完成度を見せる谷坂隧道

 

 本隧道は、姉川支流草野川上流の村落から河毛・虎姫への短絡路であり、工費15.6万円余のうち2.3万円は関係の村が負担したという。西側坑口から下がった山側に建つ竣工記念石碑に記述がある。隧道ができるまでは厳しい山越えだったのであろう。隧道の両坑口に地蔵尊が祀ってあるのが印象的だった。

隧道の開通5周年を期して建てられた記念碑、撰文は滋賀県経済部長

 

 関ケ原方面から長浜市街地に入る幹線であった横山隧道と異なり、本隧道は極めて地方的な交通を扱っている。だからこそ今に至るまで2車線化の必要に迫られず、創設時の姿を残すことができた。煉瓦からコンクリートへと建設材料が変化するのに合わせて設計を洗練させてきた一連の村田 鶴の作品の中でも、本隧道の意匠は際立っている。高い格調を誇る彼の作品がこれからも地域に根付いていくことを願う。

 

(出典) 「関西の公共事業・土木遺産探訪<第4集>」 p39

※上記の図書は書店では扱っておりません。お求めはこちらをご覧ください。

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筆者:坂下 泰幸

 

 

 

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