2021.7.13
時代の異なる2つの鋼トラス橋が並ぶ南海本線紀ノ川橋梁
南海鉄道が紀ノ川を渡って和歌山市に到達したのは1903(明治36)年。日露戦争を目前に控えて由良要塞の建設が急ピッチで進んでいた時だった。現在の紀ノ川橋梁は、単線橋が2本架かっているが、そのうち下流側の上り線がこの時のもので、もう一方は1923(大正12)年の複線化に際して追加されたものだ。
まず、上り線側は橋長が627.4mで右岸側から16連の70ft(約22.1m)上路鋼版桁橋+3連の200ft(約62.1m)下路曲弦プラットトラス橋+3連の70ft上路鋼版桁橋という構成である。アメリカンブリッジ社(American Bridge Co.)で製作された。格点(トラスの部材が交わるところ)はピン結合で、引張力しか働かない下弦材は両端に穴の開いたアイバー(eyebar)と呼ばれる板状の鋼材になっている。これらは1880年代のアメリカの橋梁の標準的なスタイルであった。が、ピン結合もアイバーもゆるみや破断の恐れがある。よって、それらの維持管理がきわめて重要である。
次に下り線を見る。こちらは、橋長が628.8mで右岸側から16連の上路鋼版桁橋(約22.3m)+3連の下路曲弦ワーレントラス橋(約62.4m)+ 3連の上路鋼版桁橋(約22.3m)であって、上り線と微妙にスパンが異なっている。トラスは鉄道院の設計という。上り線のプラットトラスに対して下り線ではワーレントラスが採用されているのは、この間の経験からワーレントラスの方が鋼材の使用量が少なく合理的であることが知られたからだ。格点における部材の接続にはガセットプレート(gusset plate)という多角形の鋼板を用い、結合はリベット1によっている。
1)リベット(rivet)とは片側に頭のついた鉄の短棒のこと。重ねた鋼板にあけた穴に赤く焼いたリベットを差し込み、他端をたたき潰して固定するのである。
図-1 上り線のプラットトラスと下り線のワーレントラスのスケルトン
図-2 上り線側のピン結合(左)と上り線側のガセットプレート
図-3上り線側に採用されているアイバー
筆者:坂下 泰幸
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